東京高等裁判所 昭和30年(ネ)110号 判決
被控訴人主張の組合と被控訴人との取引につき控訴人が連帯保証をした事実は、控訴人の極力否認するところであるからまずこの点から考えてみよう。
右組合の代表理事である鈴木長治は控訴人の妻の妹婿であつて、控訴人は従来から当人が会社を設立する等の場合、同人の依頼によつてその発起人又は取締役に就任したことも度々であつたこと、本件組合設立の際も同人からその発起人及び役員に就任の話があり、かつその設立手続に必要な印鑑証明書と実印を貸してくれとの申出を受けこれを同人に交付し、その設立後は同組合の監事となつたこと、その後も昭和二八年の夏頃は新たに会社を作るからとの理由で、また同年暮か昭和二九年一月頃は会社の関係で必要との故で再度に亘つて同人にその実印を貸与した事実のあることは、いずれも控訴人の自ら主張するところである。そして証人鈴木てるの証言及び控訴本人の供述を総合すれば少くとも次の事実だけはこれを確認するに足るのである。即ち控訴人は右控訴人主張の会社の発起人となり役員となる際も、すべてを妻の妹婿である鈴木長治に委任し、同人に控訴人の印を交付してその使用にまかせていたものであつて、本件組合設立の際もまた同様であり、その後も鈴木からその妻てるを通じての申出があれば、その都度「店で必要」「一寸印が必要」程度の申出に応じて、その使用目的を質すことすらせずして、全く鈴木を信頼し、容易にその実印を同人に貸与していたものであつて、しかもその貸与の期間も短かきは二、三日、長きは三、四カ月の長期に亘つたというのである。そして本件取引に関する甲第一号証の根抵当権設定手形割引契約証書及び同第二号証の約束手形における控訴人の保証人としての署名押印は、いずれも鈴木長治においてその記名をし、印は右のようにして控訴人から預つていた実印を押して右各書面を作成したものであること証人鈴木長治の証言並びに控訴本人の供述に徴して明らかである。そうすれば控訴人は右の如くにして鈴木長治にその実印を貸与することにより、同人がその関係事業につき控訴人の右実印を使用して控訴人に代つて鈴木の事業援助のための行為をすることを許していたものと認定するの外はないのであつて、結局右甲第一、二号証による契約は鈴木が右の如くして控訴人から与えられた権限に基き控訴人に代理してこれを締結したものと認めるのが相当であり、控訴人は右契約からする責任を免れることはできないものと解すべきである。
(薄根 奥野 山下)